2024年公開の映画「ルックバック」を「アニメーション表現の革命」と岡田斗司夫さんは評しています。
彼が解説する2010年代以降のアニメーション表現の変遷と、「機動戦士ガンダム」に込められたSF表現の細部から、私たちが見落としがちな映像言語の豊かさについて探ります。
アニメを使ったカロリーメイトのCMからルックバックまで、多様なタッチのアニメーション表現が示す新時代。そして、宇宙船内の無重力表現やカウントダウン後のカウントアップといった細部にこだわったガンダムのSF表現。
これらの作品が私たちに伝える映像表現の進化と、その背後にある創作者たちの思いを解き明かします。
📌 この動画のポイント
- 2010年代以降、アニメーション表現は4つの革命的な波を経験している
- 「ルックバック」はカロリーメイトCMのアニメ表現を劇場アニメに応用して新たな分野を開拓
- 機動戦士ガンダムは宇宙空間の重力や軍事用語など、SF表現の細部に妥協せず
- 映像の流れ、キャラクターの位置関係、視聴者の視点誘導など、演出技法の重要性
- 創作者の意図と観客の解釈のギャップに見る「作品の深み」
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結論から言語化
アニメーション作品の表現技法や細部へのこだわりは、作品の質と深みを大きく左右します。
なぜなら、表現の細部には創作者の意図が込められており、それを理解することで作品の新たな魅力や層を発見できるからです。
「ルックバック」では多様なタッチのアニメーションが1時間の作品内で共存し、ガンダムでは宇宙船内の重力変化を羽ばたくハロで表現するなど、意図的な細部表現が見られます。
アニメの表現技法や演出の細部に目を向けることは、単なる物語の消費を超えた豊かな鑑賞体験を生み出します。
今後、アニメ作品を見る際は、ストーリーだけでなく画面構成や動きの表現、視点誘導の技法にも注目してみてはどうでしょうか?
背景から言語化
2024年までの現代のアニメーション表現は、2010年代以降「手書きへの回帰」「多様なタッチの共存」「漫画家自身による監督」「多様なタッチを長編で」という4つの革命的波を経験しています。
この変化により、視聴者は単に物語を追うだけでなく、多様な表現技法や演出の細部にも目を向ける必要がある時代になっています。
アニメーション作品を見る際は、キャラクターの動きや背景表現、視点誘導など、創作者が意図的に配置した細部にも注目してみてください。
そうすることで、ストーリーの理解だけでなく表現技法の進化も実感でき、作品をより深く豊かに楽しむことができるようになります。
2010年代以降のアニメーション革命
第1波:手書きへの回帰(2016年)
岡田氏によれば、アニメーション表現の第1波は2016年の「この世界の片隅に」から始まりました。
それまで3DのCGアニメーション、特にピクサー作品が隆盛を極め、細部の表現や正確な動きが重視される時代でした。
しかし片渕須直監督の「この世界の片隅に」は、3DCGの正確さよりも「手書きでデフォルメした、あえて線を省いたり、くどいほど丁寧に書くことによって出てくる画面からの魅力」を追求しました。これは「手書きへの回帰」とも言える動きでした。
この影響は「無職転生」第1シーズンのようなアニメにも見られます。
第2波:多様なタッチの共存(2018年)
2018年には「スパイダーマン:スパイダーバース」が登場し、アニメーション表現の第2波が起きます。
これは「3DCGによる表現拡大」で、ピクサー的な細やかさや写実性ではなく、「どれだけ新しいスタイルを混在させることができるか」という挑戦でした。
異なるタッチのアニメーション表現が一つの世界観の中で共存するという試みは、マルチバース映画の先駆けとも言えます。
第3波:漫画家自身による監督(2022年)
2022年の「THE FIRST SLAM DUNK」は、漫画家である井上雄彦自身が監督を務め、3DCGアニメーションで自作を表現するという「禁断の手法」を実現しました。
「現役の絵で評価されている最高峰の漫画家が自分自身で監督して自分の作品をアニメーションで表現する」という試みは前例がなく、特にSFではなくスポーツ作品で実現したことに革新性がありました。
第4波:多様なタッチを長編で(2024年)
そして2024年、「ルックバック」が第4波として登場します。
これまでカロリーメイトなどのCMでしか見られなかった「多様なタッチのアニメーションの混在」を、1時間の長編作品で実現したのです。
岡田氏はこれを「アニメーション表現としての革命」と評価しています。CM制作表現を劇場アニメーションに応用した点で、かつてない試みだったのです。
ガンダムから学ぶSF表現の細部へのこだわり
宇宙空間の表現:重力と無重力
機動戦士ガンダム第42話「宇宙要塞アバオアクー」では、戦闘配置に入るホワイトベースの様子が描かれています。
ここで注目すべきは、全員が宇宙服(ノーマルスーツ)を着ている点。これは「戦闘配置なので例え艦内であっても全員宇宙服を着る」という現実的なSF表現です。
さらに興味深いのは、重力の表現です。
ブリッジでは無重力状態で人物が浮いているのに対し、別のエリアでは低重力状態で床に足がついています。特にハロというロボットは「0G(重力がゼロ)の時は浮いているし、1Gの時は羽ばたかないし、低重力の時だけ羽ばたく」という細かい表現がされています。
カウントダウンとカウントアップ
宇宙作戦のカウントダウンシーンでは「3、2、1、0」の後に「01、02、03」とカウントアップが始まります。これはロケット発射時のNASAの実際の手順に基づくもの。カウントダウン後に続くカウントアップは、一般的なアニメではほとんど描かれない細部です。
岡田氏によれば、「アポロの時代に共通化した」この手順を知っている人は少なく、「よっぽど詳しい人じゃないと知らない」にもかかわらず、ガンダムでは当然のように表現されています。
軍隊用語と心理的描写
作戦前の会話でも細部へのこだわりが見られます。
アムロがフラウボウに「どんなことがあっても諦めちゃいけないよ、こんなとこで死んじゃつまらないからね」と囁くのは「軍紀違反」だからこそ小声になるという設定です。
また、エレベーターシーンでは子供たちがいる間はニュータイプ能力について自信を持って語るアムロが、子供たちがいなくなると「嘘ですよ、ニュータイプになって未来のことがわかれば苦労しません」と本音を漏らします。
このような大人と子供の前での言動の使い分けも、リアリティを高める要素となっています。
演出技法から学ぶ映像言語
視聴者の視点誘導
ガンダムの映像表現で特に興味深いのは、視聴者の視点をどう誘導するかという演出技法です。
例えば、アムロとフラウボウの会話シーンでは、アムロがフラウボウの右側から話しかけ、去っていく様子が描かれますが、これは視聴者の視線を左右に動かす効果があります。
岡田氏は「宇宙船の中の会話で絵としては退屈で平凡になっちゃうし構図としてもあまり凝ったことができない」中で、「演技的に視聴者の視点を左右に動かすことでちょっとでも緊張感を出そう」という意図があると解説しています。
キャラクターの細かい動きが伝える心理
また、ハヤトがフラウボウに話しかけるシーンでは、左足のつま先がちょいと上がっているという細部が描かれています。
これについて岡田氏は「この辺の演技細かいですよね」と指摘し、「ちょっとこのウキウキ気分というか、『お前ら付き合ってんな』感が出ている」と解説します。
このように、セリフや表情だけでなく、体の細かい動きによって心理状態や人間関係を表現するという手法も、アニメーション表現の奥深さを示しています。
作品解釈と創作者の意図
『ルックバック』の解釈をめぐって
岡田氏はルックバックの解釈について興味深い視点を提供しています。
視聴者の中には「アマデウス」と比較して解釈する人がいるそうですが、岡田氏はそれに異議を唱えます。
「みんな観客はいい人すぎる」と前置きした上で、「漫画家ってそんなに心の中が綺麗なわけでもない」「最終的にエグい人の方がプロとして残る」と指摘。
アマデウスとの比較は「自分よりももっと才能のある人がいたのに自分は」という罪の告白として作品を捉えているが、「そんな綺麗な話じゃない」と述べています。
岡田氏によれば、ルックバックでは「途中で辞めちゃう子の方は天才じゃない」のであり、「主人公の藤野の方が天才だ」というのが本当の面白みだと解釈しています。
ニュータイプの解釈
ガンダムのニュータイプについても、岡田氏は興味深い解釈を示しています。
「時々エスパー超能力者の表現がある」一方で、「どうやればみんなはジオン・ダイクンのような立派な人間になれるんだろうか」という「祈りのようなニュアンス」も含まれていると指摘。
特に、後の続編で解釈が複雑化する前の「一番初期の段階」のニュータイプは、「スターウォーズのフォース」と同様に、超能力的な側面と精神的・哲学的な側面を併せ持つ概念だったと分析しています。
📝 まとめ:作品の細部に宿る創作者の思い
アニメーション表現の革命にせよ、ガンダムのSF表現の細部へのこだわりにせよ、これらは全て創作者たちの思いが形になったものです。カロリーメイトのCM制作手法を劇場アニメに応用したり、宇宙船内の重力変化を羽ばたくハロで表現したり、視聴者の視点を意図的に動かす演出を工夫したり。
こうした細部への配慮がアニメーション作品の深みを作り出し、何度も見返したくなる魅力を生み出しています。
私たちが作品を見る時、ストーリーだけでなく、こうした表現の細部にも目を向けることで、より豊かな鑑賞体験が得られるのではないでしょうか。
本記事著者によるあとがき
- カロリーメイトのアニメーションCMを見て、多様なタッチの表現を確認してみる
- 「ルックバック」を鑑賞し、さまざまなアニメーション表現の混在を味わってみる
- 「機動戦士ガンダム」を鑑賞し、SF表現の細部にも注目してみる
- お気に入りのアニメや映画を、表現技法や演出の視点から分析してみる
アニメクリエイターたちの意図や工夫を意識することで、作品鑑賞の楽しみはより一層深まります。あなたも「アニメを見る目」を磨いて、アニメーション作品の新たな魅力を発見してはいかがでしょうか?